今回は、良書が多い中公新書の人物シリーズから、私が好きな3冊を紹介する。
ビスマルク
1冊目はこちら。
欧州の近現代史好きなら知らぬ者はないであろう、「鉄血宰相」ビスマルク。
この作品からは、彼が複雑怪奇な欧州情勢の中にあって、決して長期的な視野からプロイセンが進むべき道を選び取ってきたわけではなく、突発的な難事象に都度「最適解」を捻り出すことで戦い抜いてきた「政治的天才」であった、ということがよく分かる。
その点、最終章で引用されている彼自身の言葉がよく物語っている。
政治とは可能性が教示するものである。
政治とは大学の先生方が鼻にかけているような学問ではなく、まさに術なのであります。
政治とは学問ではなく術であり、教わるものではなく、生まれつき持っている才能でなければならない。
全てに賛同できるわけではないが、多分に真理を含んだ言葉だと思う。
フランクリン・ローズヴェルト
2冊目はこちら。
アメリカ人が評価する大統領ランキングで常に上位3位には食い込んでくる「危機の宰相」フランクリン・ローズヴェルト。
(同じく上位のワシントン、リンカーンに比べると日本での人気は低い。特に極右には全く人気がないだろう。)
重い病を抱えながらも、4選(計12年)の長きに渡り大統領を勤め上げ、大恐慌を乗り越え(これには批判もあるようだが)、何より第二次大戦において連合国を勝利に導いた屈指のリーダーだ。
彼もまた、イデオロギー的な拠り所を持っていたわけではなく、迫りくる危機に都度「最適解」を出すように動いたプラグマティックな政治家だったわけだが、彼がビスマルクと異なるのは、言葉によって国民を鼓舞し、そしてまとめ上げる力に秀でたところだ。
太平洋で日本が突然、犯罪的な攻撃を仕掛けました。これによって10年間にわたる国際的な蛮行は最高潮に達しました。
(日独伊)は結束して「全人類に戦争を仕掛けています。アメリカは、今まさにこの挑戦を受けて立たなくてはならないのです。」
上記は真珠湾攻撃を受けての炉辺談話からの抜粋だが、病に苦しむ大統領からの決意を込めたメッセージに胸を打たれなかったアメリカ人はいなかっただろう。
現代民主主義の世界における模範的なリーダーの一人だと言える。
スターリン
最後はこちら。
ウクライナ戦争を考える中で見え隠れする「赤いツァーリ」スターリン。
正直いってスターリンは前二者とは異なり、功罪で言うと罪の方が遥かに大きい危険な独裁者だと思う。
だが、何も惹かれるものがないかというとそんなことはない。
第二次大戦においては東部戦線でナチスを破り、後進国であったロシアを米国に並ぶ大国に押し上げた功績もある。(その裏でホロドモール、シベリア抑留では数え切れない程の人を死に追いやった訳だが。。)
本作は、新たに発見された資料なども参照しつつ、スターリンとは何者だったのか、という課題に対する答えを探る試みである。
その結果各々が抱くスターリン像は様々だと思うが、私は彼の日本に対する見方を知って思ったよりも臆病な男だったのかなと感じた。
(蒋経国に対して)「貴下は、敗北後の日本には、モンゴルを占領してソ連を攻撃することなどできないとされておられる。確かに、ある期間はそうであろう。しかし永遠にはない。負かされても、日本人のような民族は必ず立ち上がってくる」
経済的に立ち上がったといえばそれまでだが、確かにソ連に占領されていたなら軍事的に立ち上がっていただろう。
そう考えるならば慧眼と言えるのだろうか。。
(とまれ米国に占領されたことはこの上ない幸運だったことは間違いない。)
まとめ
中公新書の通史や国史にも良い本は多いが、人物史も大変読みやすく良い本が良いので、興味があれば手にとってほしい。
以上。