また痛ましい事故が起きてしまった。
(しかも調布市内で)
9日午前8時20分ごろ、東京都調布市の京王線柴崎駅で大島発橋本行きの急行電車(10両編成)に女性がはねられた。女性は死亡が確認された。警視庁によると、ホームから線路上に飛び込む姿が目撃されたという。
https://news.yahoo.co.jp/articles/1d648f88b0caa70b457c4a90f5dbe68801b5974f
私の地元は車社会なので、東京のように電車による人身事故は殆ど起こらない。
(無論車による人身事故は多い)
だから東京に来て、毎日のようにどこかでこういった事故が起こり、またそれを半ば当たり前のように受け入れている社会に慄然とした。
だが、長く東京で暮らすようになると、私も徐々に人身事故をそのように受け止める様になってきていることに気づき、空恐ろしく感じた。
なので今日は人身事故について、 ①概況、②原因、③影響、④対策の観点から少し考えてみたいと思う。
概況
まず、我々が普段耳にする「人身事故」という言葉だが、これは正式には「鉄道人身障害事故」というらしい。
なぜこのような定義から入ったかと言うと、試しに「電車 人身事故」だけで調べてみても、まとも(公式)なデータが全くと言っていいほど見れなかったからだ。*
*となると、官公庁が出しているデータを探すためには、やはり正式な名称を知らないといけない。
そうして調べてみると、それらしい資料が出てきた。
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/r03kou_haku/zenbun/genkyo/h1/h1b2s1.html
これは内閣府のデータだが、これによると、令和2年の鉄道交通事故の内、人身障害は310件(内死傷者313人)に渡っている。
つまり大まかに考えると、ほぼ毎日、どこかで人身事故が起こっているということになる。
ただ、前年比では10.4%減ということなので、全く良くはないが数が少なくなってきていることは多少救いだと感じる。
地域データはなく、内訳も全ては公開されていないが、ホーム事故が116件ということで、今回の事故のようなケースが多いということが分かった。
原因
次に原因だ。
さて、早速にはなるが、実はこれを探っていくにあたっては大きな障害がある。
それは先も述べたように、人身障害のうち、内訳として例示されているのが「ホーム事故」だけだということだ。
これは確かに人身障害の37.4%を占め、最大なのだとは思うが、残り60%以上の原因が分からない。
初めは踏切での事故が含まれるのかと思っていたが、それは踏切障害なので該当しない。
ということで、ホーム事故に限るため、ここからの分析はやや片手落ちの感があることは否めないが、それをご了承いただきたい。
以下は国交省のデータで、少し古いが原因を探るにあたっては有用である。
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001378759.pdf
酔客が51.8%で半数程度、体調不良は7.5%、旅客トラブル(殺人?)0.0%*、その他40.7%となった。
こう考えると、約4割は自殺、と考えて良さそうだ。
ではその自殺の原因は何か、ということについて憶測を掻き立てる記事が多々あるのは知っているが、それは究極的には想像でしかないものだと思うので、本稿では割愛したい。
影響
これは詳述しない(参照いただく方が早いため)が、大きく金銭的な影響と物理的(運行遅延)な影響がある。
金銭的な影響については以下のサイトに詳しく、
https://atomfirm.com/media/21661#2
物理的な影響(原因)については以下のサイトが詳しい。
https://www.westjr.co.jp/company/action/service/safety_transport/accident/
金額の平均や遅延時間の平均等は公式資料がないため、ケースバイケースとしか言いようがないのだろう。
対策
続いては対策。
これは、先の原因を踏まえると、飲食店の酒類提供禁止や、国・自治体によるカウンセリングサービス、経済支援の拡充など、間接的な対策は色々あるだろうが、最も効果的なのはなんといってもホームドアの設置である。
以下の資料を見てもらえば分かるが、これはホーム事故には絶大な効果を発揮する。
ホームドアの整備が完了している丸ノ内線及び有楽町線では、全線整備完了後には、列車乗降時に列車とホームの隙間に足を踏み外して転落した事象は発生したものの、それ以外の転落及び転落による遅延は発生していない。
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001380214.pdf
事故を0件に減らすということは、論理的に考えれば、全ての駅にホームドアを設置すれば、ホーム事故は基本的に100%防ぎうるということだ。
では何故出来ないのか。
それは費用の問題だろう。1ドアあたり400万円(1駅で1.6億円程)に上るという設置費用を投資することが鉄道会社にとって受け入れられないということが主因だと思われる。
http://www.pp.u-tokyo.ac.jp/graspp-old/courses/2014/documents/graspp2014-5113090-2.pdf
確かに高額である。
だが、これはできる(したほうが得・すべき)投資ではないだろうか。
上記の論文でも、この投資はペイすると結論付けているし、以下の記事では、安価なホームドアの設置に向けて奮闘する製作所の姿が描写されている。
https://toyokeizai.net/articles/-/325122
また、東京メトロやJR東日本なども、今後10年以内に全駅にホームドアを設置することを目標としているそうだ。
https://www.jreast.co.jp/press/2021/20210406_ho01.pdf
https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1178138.html
道のりは険しいものと思うが、是非とも頑張ってほしい。
以上。