読書

日本経済を学ぶための2冊

非経済学部出身だが、日本経済のことをちゃんと学びたい。

そんなご要望をお持ちの方にオススメできる2冊を紹介する。*
*3の方が区切りが良いのは承知しているが、最近私が読んだ中ではこの2冊が図抜けているため、今回は2冊とした。

日本経済のマクロ分析 低温経済のパズルを解く

1冊目はこれ。

というか、これだけ精読すればもう1冊は正直必要ないくらいの出来。*
*先に伊藤先生に謝っておきます。

本書は日本経済に関わるデータを見ていくことで以下の謎(パズル)を導き、それに対する考察を都度加えていくというスタイルを取る。

(参考)各章で提起される謎(パズル)

  1. 1990年代以降、経済成長率が鈍化したのはなぜか
  2. 90年代以降、部門別のISバランスはどのように変化したか
  3. 戦後、日本の景気循環はどのような変貌を遂げたか
  4. 家計の貯蓄率が低下してきたのはなぜか。勤労・若年者層と高齢者層で貯蓄率の動きが違うのはなぜか
  5. 90年代以降の財政悪化の要因は。財政は持続可能か。非伝統的金融政策はなぜ物価目標を達成することができなかったのか。アベノミクスをどう評価するか

それぞれ謎(パズル)と考察の論旨が明確であり、まるで数学の問題を解いているかのようにすっと腑に落ちる。(著者の鶴氏が数学科出身であることとも無関係ではないだろう。)

具体例を上げると、

  • 労働、資本、TFPすべてがマイナスに寄与しているため、成長率が鈍化
  • 賃金が上がりにくい理由は、非正規雇用拡大、労使の雇用維持重視、賃金の下方硬直性を原因とした上方硬直性が関係
  • 家計の貯蓄率低下は高齢化で説明可能なのは3割強。高齢者の貯蓄率が低下している影響が大きい
  • 財政悪化の主因は社会保障費の増大
  • 非伝統的金融政策は期待効果に頼るも物価上昇率は変わらず、信頼性に弱まり

などなど。

また最終章では、「「低成長・低温経済の自己実現」の打破を目指して」と銘打って処方箋が提示されるが、無論それは日銀が金を刷ればすべて解決!といったようなレベルのものとはかけ離れた現実的なものだ。

そこに希望を見出すか悲観するかは読者次第だが、少なくともその前段としての日本経済の現況を知るにあたっては最良の1冊と言えるだろう。

ネットニュースではわからない本当の日本経済入門

2冊めはこれ。

先程は1冊目を押しすぎてしまったが、こちらも非常に分かりやすい良い本だ。*
*数式やグラフが苦手、という人には多分こちらの方が理解しやすいと思う。

著者の伊藤元重先生は経済を学ぶものなら知らぬ者はいないであろう程の大学者であり、私は先生の本をほぼ作者買いしている。

さて、先生は何冊か一般向けの本を出されているが、昨年出された最新の1冊がこちら。

MMTとかリフレとか、SNSでよく見るけどなんか疑わしいんだよな、、といったような感覚の人が日本経済の現状を正しく理解する1冊としてはこの上ない内容になっていると思う。

無論、見解自体は1冊目と大差があるわけではないが、こちらは昨年出版ということもあり、コロナというビッグイシューを踏まえた内容となっている点、より速報性の高いものになっている。

章立ては以下。

  1. コロナ危機からの回復はいつか--GDPの理論
  2. デジタルとグリーンがなぜ重要なのか--総需要と総供給
  3. 見直されるケインズ経済学--インフレとデフレ
  4. コロナ危機が働き方改革を加速--労働市場
  5. ゼロ金利政策の”深掘り”とは--金融
  6. 巨額の債務は何をもたらすか--財政
  7. 先進国に共通する長期停滞と格差拡大--経済成長
  8. 貿易収支の背後にマクロ経済問題--国際金融
  9. バブルも危機も繰り返す--資産市場

全章勉強になるが、特に第2章における「なぜ長期停滞が起きているのか」「アベノミクスの成果と限界」「TFPを伸ばすためには」の箇所は強く私の印象に残った。

300pほどある大部だが、読んで損はないと思うのでぜひ手にとってほしい。

まとめ

今回は2冊のみの紹介となったが、今後も良い本を見つけたら更新していく。

また、経済について読むべき本を探すにあたっては、

  1. 経済の学位持ち(修士以上)
  2. 英米圏への留学経験有
  3. SNSで暴れていない

の3要件を満たしていれば大きく外れることはないので、これを一つの指標にしてほしい。*
*特に1を満たしていないものは手に取るだけ時間の無駄だ。

以上。

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