掲題の件。
いきなりだが、ここでいう「未知」というのは、私にとって、という意味であって他意はないので悪しからず。
サウジアラビア―「イスラーム世界の盟主」の正体
1冊目はこの本。初版が昨年年末ということで、かなり新しい本だ。
今回「未知」の国をテーマとしたが、私の中で中東で最も「分からない」国がサウジアラビアだった。
その主たる理由は、当国が2019年に至るまで、日本含む49カ国に観光ビザを発行しておらず国民レベルでの交流がなかったからだ。
https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/10/3d3d323b313da675.html
ただそうなってくると、俄然興味が湧いてくるのが人情というもの。
そこで近場の本屋にあったこの本を手に取った。
結論から言うと、正直内容は薄く、本としての面白みはあまりない。
ただ、類書がほぼない中で、朧気ながらもサウジアラビアの国情を知るのには役立った。
特に私が印象的だったのは、
- サウジアラビアの王制は絶対的なものではなく、政治権威と宗教権威が協力を仰ぎあう相互依存の関係によって成り立っている
- サウジアラビアに住む人の約3割は外国籍保持者であり、労働市場では自国籍保持者との間で深刻な待遇格差が生じている
- 過激主義者を「イスラームに反する者」と糾弾することで、「中庸・寛容なイスラーム」を掲げるイスラームの盟主としての地位を確たるものにしつつある
という点だ。サウジアラビアに興味がある人には一読をすすめる。
イラン 「反米宗教国家」の素顔
2冊目はこの本。こちらも昨年末に出た新しい本。
中東におけるスンナ派の盟主がサウジアラビアであるならば、シーア派の盟主はイランだろう。
そういう意味ではサウジアラビアと双璧をなす訳だが、この国も、私にとっては「未知」の国だ。*
*更にいうと、ここ数年のトランプ政権の対イラン政策の影響もあってか、西側にとって相容れない価値観を持った国という印象すらあった。
そんな中この本を手にとって読んでみたが、イランという国の全体像のみならず、そこに生きる市井の人々の暮らしや想い、時には彼らの癒えない傷に至るまで詳細に描き出しており、非常に良い本だった。
例によって印象的だった点を挙げると、
- (実態としての差別や迫害はあるが)「少数者の信仰を認める(妨げない)」という信仰の自由がファトワにより保障されている
- 大統領は最高指導者の「下」に位置するが、相応の裁量があり、保守派から改革派まで多種多様な人材と彼らによる政治が展開されてきた
- 同性愛は認められないが、医師の診断があれば性別の変更は妨げられない
といったところだろうか。
その他、これはイラン特有の、という訳ではないが、SWIFTから追い出され経済制裁の最中にいる市井の人達の暮らしを読むと、今のロシアもそうだが政治のツケはいつも国民が払わされるのだなと暗澹たる気持ちになる。*
*それでも前向きに生きる本書の登場人物は皆素晴らしいが。
インド残酷物語 世界一たくましい民
3冊めはこの本。これまた昨年10月出版の新しい本だ。
まず結論から言うが、この本は強くオススメする。*
*インドに興味があるなら絶対読んだ方が良いし、そうじゃなくても一流のフィールドワークなので読んだら面白いと思う。
インドは確かに近いし、周囲にも行った人も多く、またインド料理屋も至るところにあるから決して「未知」ではないと思っていたが、読んでみて「未知」(或いは「非知」)だったな、と分かったケースだ。
この本は前2者と趣を異にしており、徹頭徹尾筆者が見たインド、という内容になっている。
だからインタビューの対象が筆者の専属ドライバーだったり、お手伝いさんだったりする。
それだけ聞くと、自分は広大なインドを遍く知りたいのに、筆者の半径5メートルくらいの話しか聞けないならいいや、と思う人もいるかもしれないが、そういう人は実にもったいない。
たしかに、高い空から一国を眺める試みは重要であるし、そうすることで見えるものもあるが、それは飽く迄「知る」という領域の話であって、「分かる」という領域の話ではない。
一国の一部分であっても、「分かる」というところまでたどり着くためには、対象に対して徹底的に掘り下げ、時には心を寄せる必要がある。
その困難な試みがなされ、また成功している稀有な本が本書だと思ってほしい。
とにかく手にとって読んでみてほしいので、敢えて中身については割愛する。
まとめ
日々の生活に忙殺された時、ふと遠くの国の物語を読みたくなる。
これからも面白いものが見つかれば、色々と紹介したい。
以上。